東京地方裁判所 昭和38年(特わ)606号 判決 1965年7月20日
本店所在地
東京都大田区原町一二番地
日興機械株式会社
(右代表者代表取締役藤井政雄)
本籍
新潟県見附市上新田町三、二八七番地
住居
東京都大田区調布嶺町一丁目一三三番地
会社役員
藤井政雄
明治四五年三月一七日生
右の者らに対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官中野博士出席のうえ審理し、つぎとおり判決する。
主文
1 被告会社を罰金二〇〇万円に、
被告人藤井を懲役六月及び罰金一〇〇万円にそれぞれ処する。
2 ただし被告人藤井に対してはこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
3 被告人藤井が同被告人に対する右罰金を完納しないときは金五、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
4 訴訟費用は被告会社び被告人藤井の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社は東京都大田区原町一二番地(昭和三六年四月二〇日までは新潟県見附市今町六三番地)に本店を設け、精密工作機械等の製造販売等を営業目的とする資本金一億二、〇〇〇万円、(昭和三四年一二月一九日以降は九〇〇万円、同三六年五月一三日以降一、二五〇万円、以後漸次増資を重ね上記金額になつた)の株式会社であり、被告人藤井は右被告会社の創立当時からその代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人藤井は被告会社の業務に関し、法人税を免れる目的をもつて、売上脱漏、架空仕入の計上等の不正な方法により所得を秘匿し、昭和三四年八月一日より同三五年七月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が八五、五二四、〇九八円あつたのにかかわらず、同事業年度の法人税の申告期限の最終日たる同三五年九月三〇日、新潟県三条市大字新保字上通一、一〇四番地所在の所轄三条税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三二、八三二、五八一円であり、これに対する法人税が一二、三四三、八五〇円(ただし法人税法第一七条の二による留保金額に対する課税額を除く)である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度の正規の法人税額三二、三六六、六二〇円と右申告税額との差額二〇、〇二二、七七〇円を不正に免れたものである。
(なお右事業年度における所得金額の算出は別紙第一の修正損益計算書記載のとおりであり、その不正に免れた所得内容は同第二の逋脱所得の内容記載のとおりである。)
(証拠の標目)
右の事実は左記証拠を総合して認定する。(なお、証拠表示中括孤内の洋数字は別紙第一、第二を通じその該当勘定科目番号を示し、洋数字の表示なきものは判示事実全般についての証拠を示す)
1、被告会社代表者兼被告人(以下単に被告人とのみ言う)藤井の当公判廷における供述
2、被告人藤井の検察官に対する供述調書二通
3、国税査察官伊東保雄外一名共同作成の被告人藤井に対する質問てん末書
4、証人大矢市之助の当公判廷における供述並びに第六回公判調書中の同証人の供述記載
5、証人大島教央の当公判廷における供述(1、11、17)
6、第三回公判調書中証人佐藤俊彦、同安達敬之、同山本正三、同佐藤清(以上いずれも1)、同山木鉱造、同千田瑞四郎(以上両名は48、70)の各供述記載
7、第五回公判調書中証人星野ヨシの供述記載(10、17、22、27)
8、大矢市之助の検察官に対する昭和三八年九月一二日付供述調書(11)
9、大蔵事務官大島教央作成の調査書類
イ、売上計上洩調査書(1)、ロ、架空仕入調査書(17)、ハ、有価証券売買益調査書(48)、ニ、有価証券評価損益調査書(60)、ホ、期首受取手形調査書(1)、ヘ、簿外預金利息調査書(10)
10、大蔵事務官菊地正外六名作成の銀行調査書(1、17)
11、大矢市之助(旧姓により丸山市之助名儀となつている)作成の答申書
昭和三六年三月一五日付売上の繰延に関するもの(1)、同日付架空仕入に関するもの(17)、同月一六日付架空仕入及び受取手形計上洩れに関するもの(17)、同日付売上の繰延に関するもの(1)、同月二四日付架空仕入に関するもの(17)、同月二五日付のもの、(8)
12、その他の答申書(氏名は作成者)
イ、佐藤俊彦同月二二日付、同月三〇日付のもの、安達敬之二通、山本正三丁数四枚のもの(以上いずれも1)星野芳ことヨシの同月一六日付のもの(17、22、27)
ロ、松山篤、坂下親衛、山本嘉一、中山精工株式会社、藤井五郎、藤城次郎、住吉重次郎、森健吾、大場庄之助、飯野英二、中島延好、古谷野武、佐藤清(以上いずれも1)、信賀大資(10)、山木鉱造、千田瑞四郎(以上両名48、60)、西村秋治、小清水英次郎、株式会社柴銅鉄店、南精工業株式会社永井、大久保作次郎、白木茂男、大谷繁司、河合好蔵、杉山正一、工藤福三、小林勇、菊地芳郎、成瀬良明、佐々木多市、中沢正夫、南豊太、黒住一夫、二村武、鈴木次郎、旧東京金属産業株式会社、細野定雄(以上いずれも17)
13、谷岡時雄作成の証明書(1)、佐々木多市作成の回答書(17)
14、登記官吏安達忠夫作成の登記簿謄本二通
15、久保慶康作成の提出書四通(定款、会社組織一覧表、職員職務分掌添付)
16、被告人藤井作成の提出書(株主名簿添付)
17、大蔵事務官広瀬時江作成の証明書(青色申告書提出の取消決議書、同通知書の各写添付)(26、49、50、51、62)
18、大蔵事務官飯島勝治作成の証明書二通(いずれも確定申告書写添付)
19、大蔵事務官大島教央作成の修正貸借対照表(59)
20、押収にかかる証拠物(いずれも昭和四〇年押第六九〇号)
イ、総勘定元帳一冊(三五年七月期)(同押号の一(1)
ロ、同一冊(三四年七月期)(同押号の二)(1、10、17、27)
・、同一冊(三五年七月期)(同押号の三)(1)
ニ、同一冊(三四年七月期(同押号の四)(1、10、17)
ホ、仕入元帳一冊(三五年七月期)(同押号の五)(1、10)
ヘ、同二冊(三五年七月期新潟工場のもの)(同押号の六、七)(17)
(弁護人の主張に対する判断)
1、弁護人は、被告会社は本件起訴にかかる事業年度(以下当期事業年度という)において検察官の主張する経費支出の外に簿外経費として販売拡張のための関係者へのリベート、接待費等約一、六〇〇万円を支出したと主張する。
しかしながら前掲被告人藤井及び証人大矢市之助の当公判廷における各供述、右証人大矢、同星野ヨシの公判調書中の各供述記載、被告人藤井の検察官に対する昭和三八年九月一二日付供述調書を総合するも、当期事業年度において被告会社は簿外から何程からの経費を支出していたことは認められ、かつ、その金額については被告人及び証人大矢の当公判廷における各供述には弁護人の右主張に副う旨の供述は見られるけれども右の点については他にこれを裏付けるに足る資料は何もなくにわかに措信しえずその他の証拠を検討するも結局いついかなる金額が支出されたかは勿論、年度全体における合計額も確実に認定しえない。しかして当裁判所の被告会社の所得の算定は前記のとおり損益計算法によつたものであるが、他方右計算法による所得額と、前掲大蔵事務官大島教央作成の修正貸借対照表から認められる財産計算法による被告会社の同事業年度における所得額との差額が四、四六三、八九〇円であることが認められる。そうすれば被告会社が当期事業年度において支出した簿外経費は多くとも右額を超えるものではないと認められる。(59)参照。従つて右金額を超える支出額についての弁護人の主張は理由がない。
2、次に弁護人は工場設備減価償却費一二、八五六、九二四円(26)、価格変動準備金繰入一、四三三、六九八円(49)、貸倒準備金繰入三五七、一一二円(50)、退職給与引当金繰入七六六、九〇二円(51)の合計一五、四一四、六三六円については、これは被告会社が昭和三六年八月一四日当期事業年度の青色申告書提出が取消された結果、損金計上を否認されて後日所得に加算されたものであるから当期事業年度の納税申告書提出当時においては右科目金額については脱税の犯意がなかつたものであるから逋脱所得に算入すべきではないと主張する。
しかし、被告人藤井の検察官に対する昭和三八年九月一二日付供述調書によれば同被告人は既に当期事業年度の納税申告を青色申告書をもつてなした際にその申告額が不正な方法により算出された虚偽に過少のものであり、もしその不正が発覚して青色申告書の提出を取消された場合には法人税法等の諸規定により右各勘定科目の損金計上の特典を失いその結果当然に同事業年度の所得に加算されるかも知れないとの未必的な認識を有していたことを認めることが出来るから、右各金額についても脱税の犯意があつたものといわなければならない。
3、又弁護人は貸倒準備金戻二五七、五〇〇円(62)について右は当期事業年度の前期に当る昭和三三年八月一日から同三四年七月三一日迄の事業年度の貸倒準備金に関するものであるから当期事業年度において否認し戻入れることはできないと主張する。
しかし前掲、被告会社の当期事業年度の確定申告書 (大蔵事務官飯島勝治作成の証明書に添付されているもの及び総勘定元帳一冊(三五年七月期)(前同押号の一)によれば右戻入れられた準備金は前期事業年度に計上されたものではあるが、しかしそのまま当期事業年度に繰越され当期貸倒準備金に加算計上されていたものであるから、当期事業年度の青色申告書提出の取消の結果当期計上の貸倒準備金と共に損金計上を否認し所得に加算する処置は何ら違法ではない。
以上のとおり弁護人の主張はいずれも採用しない。
(法令の適用)
被告会社及び被告人藤井の判示所為は昭和四〇年法律第三四号附則第一九条により、同三二年法律第二八号により改正された法人税法第四八条第一項、ほかに被告会社につき同二五年法律第七二号により改正された法人税法第五一条第一項に各該当するので、被告会社に対しては所定罰金額の範囲で罰金二〇〇万円に処し、被告人藤井については所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科することとし、各その刑期及び罰金額の範囲内で同被告人を懲役六月及び罰金一〇〇万円に処し、なお被告人に対して諸般の情状を考慮して刑法第二五条第一項によりこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、被告人藤井が同被告人に対する罰金額を完納することができないときは同法第一八条により金五、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文第一八二条により被告会社及び被告人藤井の連帯負担とする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木重光 裁判官 福島重雄 裁判官 武藤冬士己)
別紙第一
修正損益計算書
34.8.1~35.7.31
日興機械株式会社
<省略>
別紙第二
逋脱所得の内容
34.8.1~35.7.31
<省略>